プロジェクトストーリー

前例のないお客様の挑戦を
支えることで覚えた高揚感

新たな価値創造に向けて野村オールの知見を結集

PROJECT

03

宮崎 大輔

ホールセール インベストメント・バンキング

2005年入社

2018年10月、ANAホールディングスはエアラインで『世界初』となるグリーンボンドを発行し、産業界で大きな話題となった。前例のない取り組みのパートナーは、長年に渡って信頼関係を築いてきた野村證券。グリーンボンドは如何にして組成されたのか。プロジェクトストーリーを通じて、その舞台裏と野村證券の社会的使命に迫る。

企業の前例のない挑戦を
支えることで覚えた高揚感

2018年2月、ANAホールディングスは、中期経営計画を通じてESG経営を中核に据えることを宣言。地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境分野への取り組みに対する支出に資金使途を限定した社債『グリーンボンド』の発行を計画していた。環境に対する意識の高い欧米諸国で先行し、ポピュラーになりつつあった手法ではあったが、日本においては2016年9月に野村総合研究所がはじめて『グリーンボンド』を発行して以来、国内全体を見渡してみてもまだ事例が10件にも満たないような状況だった。しかも、本件はエアラインで世界初の起債を目指す挑戦となる。前例のない取り組みのパートナーとして声がかかったのは、長年に渡って信頼関係を築いてきた野村證券だった。
2005年に大手金融機関から野村證券に転職を果たして以来、建設・住宅・運輸セクターを担当し、別の企業で『グリーンボンド』の発行をサポートした経験のあった宮崎にRM担当者として白羽の矢が立った。話をもらった時から、この新しいチャレンジのサポートができることに“ワクワクした”という。「これまで多くの会社が、事業面において“どのように環境に配慮していくべきか”という議論を交わすフェーズで留まっていたような気がしていました。それがついに財務の話として具現化されることに新鮮味を覚えましたし、環境と財務を紐付けて考える企業が日本に現れてきたことに大きな期待がわき上がりました」。ところが、前例のない取り組みだからこその高い壁が、理想に燃えながら走り始めた宮崎の前にいきなり立ちはだかっていた。「『グリーンボンド』の認証を行う著名な国際機関の規定には、グリーンボンドの資金使途としてANAホールディングスの主な設備投資である『航空機の購入』という項目が記載されていませんでした。完全にNGということではなく、前例がないために明文化されていなかったのです。まずは、航空機の購入が対象となるのかどうか、国際機関に確認するところからのスタートでした」。

立ちはだかる壁を
乗り越えるための粘り強さ

前例のないことを、しかも国際機関を相手に動かしていくことは、それほどたやすいことではない。タイムリミットが迫る中、国際機関のコンセンサスを得る対話の機会を作ることが難しかった。「私がダイレクトにアプローチするだけでなく、弊社のロンドン拠点やDCMなど野村オールでのアプローチを続けました。相手も多忙なので、なかなか直接対話をする機会が作れないまま、時間だけが過ぎていきます」。粘りに粘った結果、国際機関のヘッドが海外の空港のラウンジでフライトの出発を待っているときに、ようやく対話する機会を得ることができた。電話会議を申し入れ、相手と直接協議をしたものの、結果として難色を示された。「グリーンボンドの資金使途としての航空機自体を否定された訳ではなかったが、市場関係者のコンセンサスが醸成されておらず、今回は難しいとの結論でした。ただ一方で、本件に対しては、エアラインで世界初の案件となるので、『できる限りの支援をしたい』との意向が確認できました」。宮崎はすぐに動き始めた。関係者と共に、改めて調達目的や対象、さらにメッセージの練り直しを進めることになった。「もはや、グリーンボンドは単なる資金調達の手段ではなく、ESG に対するANAホールディングスの想いや決意の顕れと捉えていました。ですから、なぜこれをグリーンボンドとしてやりたいのか。なぜESGを中核に据えた経営戦略を進めたいのか。エアラインとして、どのようなメッセージを伝えていきたいのか、そのストーリーを先方の財務部門や経営企画、CSR部門など様々な方々とディスカッションして作り上げていきました」。

単なる“引受証券会社”としての
役割を超越していた

顧客と一丸となったディスカッションの中から生まれたのが、環境への負荷が少ないグリーンビルディングの建設費用を資金使途とする計画だった。「単なるオフィスビルディングではなく、パイロットや客室乗務員を養成する総合トレーニングセンターを作るための資金を調達しようとなりました。世界最新鋭の訓練設備を備え、環境に配慮した本センターでの訓練を通じてパイロットや客室乗務員を養成し、環境への負荷が少ない省燃費機材の導入を加速させるというストーリーラインを策定しました」。普通の社債発行であれば、ここまでストーリーラインに拘ることはない。しかし、もはやこれは単に社債を発行する“引受証券会社”としての役割を超越したものだった。そこまでのめり込んでいった“想い”のベースにあったのは、「お客様のお役に立ちたいという気持ちはもちろん、それ以上に、単なる調達金額の多寡だけではなく、本件が与えうる社会的なインパクトの大きさ、ESG経営を中核に据えたANAホールディングスのその想いをいかに具現化していくかに感じたやりがいだと思います。“環境負荷の高い産業においても、このような取り組みをしている”というメッセージを社会に発信する、特に機関投資家の人たちに見てもらえる大きな機会になるのではないかと思いました」。投資家からすれば、リターンを意識するのは当然のことだ。しかし、意義が感じられる案件であればさらに投資がしやすくなり、また社会貢献に繋がる。だから、社会へのメッセージや意義を感じさせるストーリーづくりが重要だと宮崎はいう。「投資家サイドも、資金の出し手や世間に対して社会的意義のある投資を行っているということを示していかないといけない。その流れを加速させることで、野村證券としてもSDGsの達成に貢献していけるのではないか。このマーケットが拡大していけば、環境に配慮した調達手法で多くの会社が資金を調達し、そこに賛同した投資家が集まって資金が循環していくことで、ますます環境負荷が少なくなっていくという世の中が実現できるのではないかと思いました。金融という側面から、そういったお手伝いができれば非常に“野村らしい”のではないかと感じました」。宮崎が考える“野村らしさ”の正体とは何か。その問いかけに彼はこう即答する。「お客様のために、徹底的にやり遂げるという部分が“野村らしい”。顧客第一を社是に掲げながら、『挑戦』『協働』『誠実』の企業理念に沿って、利益だけでなく、社会に良い影響を与えることを、資本市場を通じてやっていく。弊社のDNAといったら、言い過ぎかもしれませんが、それが私の感じている野村の魅力です」。

投資家に示した環境配慮という
新たな価値と可能性

宮崎らの熱い想いが届いたのか、ついにトレーニングセンターを資金使途としたANAホールディングスのグリーンボンドが第三者評価機関より適格との認定を受けた。発行年限10年、発行額100億円の社会的意義の高い社債がついに発行されることとなり、投資家はもちろん、多くの事業会社に大きなインパクトを与えるトピックとなった。宮崎は、この一連の出来事を振り返りながら、今回の成功要因を分析する。「フロントである私の部署をはじめ、ESGを専門で扱うチームが所属するDCM部や、ありとあらゆる資金調達のサポートを担当する資本市場部が関わった。野村證券が総力をあげて、ワンチームで取り組んだ結果といえるでしょう」。ワンチームであるからこそ、お客様が伝えたい想いを素早く共有し、何がベストなのかを全員で考えて、それぞれの専門領域で動き、その成果を持ち寄ってお客様へプレゼンをし、伝える。それを何度も繰り返して完成度を高めていった結果なのだと言う。「野村證券という会社は、まとまりやすい組織だと感じています。先輩から受け継いだ言葉なのですが、カバレッジは“扇の要”という表現があります。それは私たちフロントの人間が、扇を広げた時の要の部分になる存在なのだと。そういった言葉で自身の役割を表現し職責の重さを自覚しています。また、昔から権限委譲が進んでおり、役職に関係なくメンバー全員が自分の役職以上の仕事をするよう自然と意識しているので、その経験値を持ち寄ってベストな仕事をしようというカルチャーがあります」。
エアラインで世界初となったこのグリーンボンドの影響は大きく、周辺業界にも波及し、インフラ・運輸業界においても、グリーンボンドを発行する企業が増えていった。当初10件にも満たなかった発行事例が、今では累計170件以上にまで市場が拡大している(2020年6月末時点の国内ESG債発行実績)。また、ANAホールディングス自身も、グリーンボンドを発行した翌年に『ソーシャルボンド』という二回目のESG債を発行。航空機利用者へのユニバーサルサービスの提供および従業員へのユニバーサル対応にかかる設備投資資金の調達に成功した。「今後も、環境や社会に配慮しながら事業戦略を推進したい企業と、環境や社会に良いことに投資すべきだと考える投資家を、新しい価値観や発想によって繋いでいきたいと思っています。今回、私が担当しているお客様と新たなファイナンスの手法を実現することができました。慈善活動やボランティアではなく、資金調達手段のひとつとして取り組み、可能性を示すことができたことの意義は大きいと思っています。これをさらに進化させていき、企業価値の向上に資するよう、環境や社会に配慮した調達や事業戦略を練るお手伝いができればと思います」。グローバル全体でSDGsの達成に貢献するために、宮崎は今後もお客様の要望に全力で応えていく。

注記:
グリーンボンド:環境債
ESG:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取った略称
SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称

宮崎 大輔

ホールセール インベストメント・バンキング

2005年入社