見。
集。
田淵 聡一朗
ホールセール部門 インベストメント・バンキング(※取材当時)
2001年入社

「業界のグローバルな勢力図に影響を与えるのでないか」。日本を代表するメーカーであるA社による米国の大手メーカーB社のクロスボーダーM&Aは、産業界で話題を呼んだ。なぜA社は、数百億~数千億円にも及ぶ巨額買収に挑んだのか。どのような戦略を用いてオークションを制したのか。プロジェクトストーリーを通じて、クロスボーダーM&Aの意義とやりがい、野村證券の使命に迫る。

華やかな歓声の裏に、地道な努力。

「あなた方の傘下でさらなる発展を遂げたい。最終的な買収締結に向けて準備を進めたい」。オークションの結果が発表され独占交渉権を獲得した瞬間、それは日本時間の祝日の朝にも関わらず、歓声と拍手が沸き起こった。野村證券がM&Aのアドバイスを担当した日本企業A社が、競合他社に競い勝ち、米国企業B社の買収に成功した瞬間である。今回のM&Aによって、A社は新たな技術応用の道と米国での強固な販路チャネルを確保し、新しい産業への参入が可能になるはずだ。A社担当のバンカーとして、M&A成功に向けて邁進してきた田淵聡一朗もまた、歓喜の輪の中にいた一人である。「ありがとう」、「おめでとうございます」。祝福の声が飛び交う中、A社の役員の方々が田淵にねぎらいの言葉をかけてくださった。「本当にお世話になったね。おかげさまで、20年先の会社の将来が描けたよ」。その言葉は、田淵にとって何よりの喜びであった。「お客様のお役に立てたと思いましたし、バンカーとして自分がしたかった仕事はまさにこれだったのだと思いました」。両社の基本合意を受けて開かれた記者会見の会場には、晴れやかな表情で立つ田淵の姿があった。だが、ここに至るまでの道のりは、決して華やかなものではなかった。むしろ、地道な努力と細かな作業を、黙々と積み重ねてきた結果であった。

買収先の筆頭候補は、巨大企業。

田淵が所属するインベストメント・バンキングのバンカーの仕事は、お客様と緊密なコミュニケーションを築いて事業戦略・財務戦略上の課題を共有し、必要なソリューションを提案・実行することである。今回のM&A案件も、A社と経営課題を共有する中から生まれたという。「大手メーカーであるA社は、国内での競争激化やマーケットの縮小に対応するため、自社の技術を転用・応用することで、異分野、海外マーケットへ進出する道を模索していました。そこで最適なM&Aの相手を探し出し買収を成功させることが、私たちのミッションになったのです」。バンカー、アナリスト、ファンド等、世界中に張り巡らされたNOMURAのネットワークを通じて、該当する技術や販売チャネルを持つ企業の情報が集められた。「最初に作成した ロング・リスト(買収先候補企業のリスト)には、北米、欧州など50社近くが名を連ねていたと思います。どの企業を買収することで、A社にどのような将来が開けるのか。社運をかけた議論が重ねられていきました」。やがて、リストは5社ほどに絞られていった。中でも、魅力的な販売チャネルを持ち、技術的な相乗効果も見込めるB社は、A社にとってM&Aの筆頭候補であった。「ところが、大きな問題がありました。企業規模が巨大すぎて、買収に多額な資金を要したのです。失敗すれば、企業生命に関わります。リストの筆頭。しかし、リスクも最大。答えが出ないまま、時間が過ぎていきました」。

「買収しない」というリスク。

「いよいよ決断するときが来ましたよ」。B社が売りに出されるというニュースを田淵がキャッチしたのは、案件成立から半年前のことだった。B社の株式を保有している米国プライベート・エクイティ(PE)ファンドが、有望な売却先を探しているというのである。「米国内はもちろん、あらゆる国の複数の企業が、B社の買収に名乗りを上げていました。B社を買収することで、A社より優位に立つかもしれない競合もいる。B社を買収しないリスクも、発生すると思いました」。「わかりました。動きましょう。野村證券さん、最後までお願いしますよ」。社長の決断を受けて、田淵の心も固まった。「ALL NOMURAの力を結集して、絶対にこの案件を成功させてみせるぞ」と。今回のM&Aは、全世界から多くの企業が参加するオークション方式によって行われた。「オークションと言っても、金額が高ければ決まりというわけではありません。もちろん、B社株式を保有しているPEファンドは、少しでも高値で売却したいはず。ですが、B社経営陣にとっては、自分たちの技術を理解して次に活かしてもらえるのか、従業員の雇用を守ってくれるのか、そういったことも評価のポイントになるのです」。

これだったら、負けても悔いは残らない
という数字を決めて、入札額を通知。

「入札が始まる前に、買収後の未来をどう描いているかを、B社の従業員や経営陣に示しましょう」。多くのM&A案件を手掛けてきた田淵のバンカーとしての嗅覚が、「今回は、売却される側の企業心理を重視するべきだ」と告げていた。田淵はまず、A社のプロジェクトメンバー十数名と、米国各地にあるB社の工場を視察してまわった。「サイトビジットと呼ばれるもので、事業環境を実際に見て技術者同士で意見交換をし、買収後に設備をどう活かすのか、技術をどう応用できるか等を確認していきました」。入札価格の算定に役立つだけではない。「このM&Aは本当に有効か」を確かめる機会になるし、相手方の従業員と接触することで、「A社の傘下に入るなら歓迎だ」と思ってもらうチャンスになる。「また、経営者同士の関係を深めるために、数回のトップ面談を設定。M&Aによるシナジー効果や経営観を理解していただこうと考えました」。こうして、一次入札、二次入札と勝ち残り、いよいよ「Final Bid(最終入札)」の時がやってきた。「入札額は、当然、勝てる数字でなければ意味がない。しかし、買収評価額として妥当な金額でなければ、株主やマーケットに対してA社は説明責任が果たせません」。手元には、国内と海外のカバレッジチーム、市場調査、M&Aチームが、一丸となってまとめあげたバリュエーション(企業価値評価)資料があった。「最後の入札額を決める前に、A社のトップマネジメントと膝詰めでお話をさせていただきました。そして、『これだったら、負けても悔いは残らない』という数字を決めて、入札額を通知したのです」。

最適な提案のためには、
世界を知らなければいけない。

熾烈な競争にさらされている日本企業にとって、M&Aの重要性は高まる一方である。「新規に事業を立ち上げていては時間がかかり、その間のリスクもある。他社の事業を丸ごと買い取ることで、研究開発や立ち上げに要する『時間を買う』というケースが増えているのです」。田淵は、月に一度、海外出張に出かけている。日本にいるだけではわからない、米国や欧州の業界再編やM&Aのリアルな空気をキャッチして、提案の質を上げるのが目的だ。「日本企業は、不採算部門でも何とかして組織を残したいと考える傾向がありますが、欧米の企業はある意味ドライ。収益に応じて積極的に資産の入れ替えを行うポートフォリオ経営が盛んで、『数年後には、この部門を売却したい』という話も、オープンにしてくれる。業界再編の動きも、日本より活発です」。顧客が興味を持っている企業を視察して、売却の意志を打診したり、関係を構築したりすることも珍しくない。M&Aの種を蒔きつつ、バンカーとしての嗅覚を研ぎ澄ます。「野村證券でM&Aに携わる強みは、組織が縦割りではなく、全世界のメンバーの知見を結集させてお客様のお役に立てる点。そして、90年にわたって日本企業との間で信頼関係を築いてきたことによって、シビアな経営課題も腹を割ってご相談いただけることです。今後も、お客様の事業戦略に最適なM&Aの機会を探し出し、その成立に全力を尽くしていきます」。

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