
人を知る プロジェクトストーリー#1 国内初の公募型不動産セキュリティ・トークンの引受 先取りの精神で新たな市場を築き 金融の世界に変革を起こす
Introduction
国内初の公募型不動産STOを実現
ブロックチェーン技術を活用することで、より柔軟な資金調達を可能にし、一般投資家に対しては小口での不動産投資機会を提供する不動産セキュリティ・トークン。金融の世界を変革させるほどの可能性を秘めた、このセキュリティ・トークン(デジタル証券)の取り扱いを目指して、2020年にプロジェクトが発足しました。その中心的メンバーとして未知の領域に挑んだ3人に、これまでの軌跡を語り合ってもらいました。
※セキュリティ・トークン(以下ST):有価証券とされる権利をデジタル化して、ブロックチェーンなどの技術を用いたシステム上で発行・管理される有価証券。デジタル証券とも呼ばれる。
※セキュリティ・トークン・オファリング(以下STO):STを活用した資金調達方法。
Member

山田 就久 Yamada Naruhisa

坂本 祥太 Sakamoto Shota

根本 真言 Nemoto Makoto
※所属部署・掲載内容は取材当時のものです。
Interview
Story 1
金融市場を変革する一大プロジェクト


根本
すでに流通している有価証券だけを扱っていても差別化はできません。創業の精神にある「先取りの精神」を持ち、常に他社に先駆けて新しいことに挑戦するのが野村。不動産STはまさに先駆けとなるテーマでしたね。

坂本
はい。金融商品取引法改正によって金融機関でのSTの取り扱いが可能となった2020年、パートナー企業との協業によりプロジェクトが発足しました。私は野村におけるプロジェクトの推進役として、まずはこれがどんなプロジェクトなのか、STを野村が扱う意義は何か、関連部署に説明して回ったことを覚えています。

根本
ゼロから作り上げていくものなので、最初の社内調整は大変だったのでは?

坂本
苦戦しましたね。各部署から疑問や指摘の声があがり、厳しい意見もたくさんいただきました。しかも、知見を持った方々ばかりなのでどの意見も真っ当。だからこそ指摘の一つひとつを真正面から受け止め、丁寧に対案を示し、お互いの合意点を探っていきました。

山田
私も、最初に話を聞いた時は何か得体の知れないものに感じました。商品組成を担う引受部署としてプロジェクトにアサインされましたが、ローンチまでのスケジュールの引き方すら前例がなく、何をするにもゼロベースからのスタートでした。ただコンセプトには興味を惹かれ、「やってみよう」という気持ちだけは強く持っていました。

根本
私はもともとブロックチェーン技術に興味があり、ビットコインの次はきっと有価証券が来るぞと思っていたので、プロジェクトにアサインされた時は「きたな!」とワクワクしました。

山田
根本さんの決済部では権利保全を担うため、大きな責任が伴いますが、その点で不安はありませんでしたか?

根本
確かに、STという初めて扱う有価証券においてお客様の権利の保全や移転は大きな課題です。これは重い仕事になるぞと感じました。しかし、「絶対にやる」という気持ちは揺らぎませんでした。野村には、新しいものをゼロから創り上げ、たくさんの叡智を蓄積し、それを次の新しいビジネスに活かすというDNAが息づいています。だからこそ、このプロジェクトも最後までやり切り、野村のDNAを次の世代に引き継がなければいけないと考えていました。
Story 2
全方位にいるプロフェッショナルの力が集結


根本
決済部では、STをどのように口座で安全にお預かりし、かつ権利を保全するのか、その整理からのスタートでした。特に、STを移転する際に必要となる秘密鍵の概念をどう整理し、社内の人間に理解してもらい、さらにお客様にどう理解していただくかが最も悩んだ点です。法律事務所など社外の専門家や当局の方々にもお伺いしながら、一つひとつを確定させていきました。

坂本
プロジェクトの社内ワーキンググループの初回で、課題や疑問点について関連部署からヒアリングしていたとき、根本さんが率先して発言された時のことはよく覚えています。私の理解が及ばないような専門的な観点から、鋭い指摘をバシバシくださいましたね。

根本
第一にお客様の権利が保全されなければこのビジネスを形にすることはできないと思ったので、厳しいことも言わせてもらいました。ただ、今振り返ってみると、私自身もお客様から商品をお預かりするということが法律的にどういうことなのか、分かっているつもりで実は深くは理解できていなかったと感じています。

坂本
かなり勉強をされたと聞いています。

根本
図書館で何十冊もの本を読み込んで一つひとつを整理していきました。古い本を紐とき、ペーパーの株券があった時代にまでさかのぼっていくと有価証券の本質が見えてくるんですよ。その本質を理解できたことがこのプロジェクトを通して得られた私の1つの成果です。

山田
私も、今回の経験を通じて本質を追求することを学びました。例えば開示内容ひとつとってもそうです。投資判断に関わるエッセンスを省くわけにはいきませんが、不必要に開示を重くするとコストがかかり投資家のリターンに影響が出る可能性があります。また、商品概要資料には何を記載し、どこを削ぎ落とすべきかを考え抜き、商品の重要なエッセンスのみを抽出する必要があります。こうして一つひとつの事項を突き詰め、より本質に近づいていくという経験ができたことが財産になっています。

坂本
根本さんや山田さんのようなプロフェッショナルが全方位にいることを、このプロジェクトを通して改めて認識できました。お客様と対峙するフロントの部署がフォーカスされがちですが、それ以外の本社部署にもプロフェッショナルがたくさんいて、みんなで協力して金融のインフラを支えているからこそ、野村は真っ当な商品を作ることができ、フロント部署も自信を持ってお客様に提案できる。それが、野村が業界で一目置かれている理由なのでしょうね。
Story 3
クロージング力で大きな壁も乗り越えていく


山田
価格を誰がどのように決めるのか、上場商品ではないSTでどのように流動性を確保するのか、また開示内容や利回り水準の検討など、既存の商品では議論することのない課題が山積みでした。明確なルールがない白紙の状態から論点の洗い出しが始まり、解決するために社内の専門家にアプローチをする。それで解決しなければまた別の方策を考える。そうやって一つひとつの論点に当たっていきました。

坂本
一つの部署で完結して解消できることなど一つもなく、あらゆる部署の方々と議論を尽くしてロジックを積み上げ、ブラッシュアップしていきましたね。

山田
特に、投資家間の取引を可能にするセカンダリー機能の構築という観点では、最後の最後まで議論が続きました。何ヶ月も追求し、ようやく方策がある程度固まった段階になって問題が発生し、その方策が取れなくなったことも。それまで積み上げてきた議論が振り出しに戻ってしまいました。

坂本
プロジェクトが行き詰まり、ゴールが見えなくなった瞬間は何度もありましたが、その時ばかりは堪えました。強い気持ちで推進すべき立場にもかかわらず、「もう無理だ」と心が折れてしまい、山田さんに電話して愚痴をこぼしてしまいました。すると「できるかどうかは分からないけど、最後までやってみようよ。俺はまだ諦めていないよ」と言ってくださって。あの言葉には励まされました。

山田
実を言えば、私自身もそれまでに「ダメかもしれない」と何度も折れそうになりました。しかし、私たちが諦めればプロジェクトは終わってしまいます。ここまで頑張ったのだし、逆に言えばその問題さえ乗り越えればきっと実現できる。だから、違うプランを探ってみよう、と思えたのです。現に、その後別の部署の方がサポートしてくれることになり、無事に課題をクリアできました。

坂本
あの一件は、困難な課題に立ち向かう時、信頼できる仲間がいることがどれほど心強いかを感じた出来事でした。同時に、困難から逃げたくなっても真正面から相手に向き合い、一つひとつの課題を整理し、着地点を見い出し合意形成するクロージング力の重要性も学びました。真摯に向き合うことで、最初は厳しい姿勢だった方々もやがてサポートをしてくれるようになり、得体の知れなかった大きな壁も乗り越えていけるのだと、経験を通して実感しています。
Story 4
日本の金融に変革を起こした瞬間


山田
最初のSTを世に出したのが2021年7月9日。ギリギリまで商品を出せるかどうかが分からない綱渡りの連続でしたが、無事にローンチできると分かった瞬間には全員で「よっしゃ!」と叫びました。

坂本
システム上に、有価証券届出書がポンと開示されたその瞬間がまさに、国内初の公募型不動産STが世に出た瞬間。オフィスで歓喜の声を上げたことは昨日のことのように覚えています。

根本
これは決済部の部長がおっしゃっていたことですが、ここまで新しい金融商品を世に出せたのはREIT以来ではないかと。日本の金融は欧米から一周遅れを取っていると言われてきましたが、STに関してはアメリカよりも進んでいるという意見も聞かれます。これほどの一大プロジェクトを最後までやり抜き、歴史的瞬間に携ることができて感無量です。

坂本
初めて発行された公募型不動産STの額は14億円程度でしたが、その後も業務やシステムといったインフラ面の改善を重ねながら2号案件、3号案件と実績を増やしていきました。2023年に発行され、野村が販売を手掛けた月島のタワーマンションの不動産STは134億円と国内過去最大規模になりました。さらに、私たちがパートナー企業と一緒に作った仕組みをベースとして国内全体でSTの取扱額が増えていき、今では累計発行総額が1,500億円を超えるマーケットに成長しています。私たちがプロジェクトを実現していなければ、生まれなかった市場です。金融市場に変革を起こしたと考えています。

山田
最初のプロダクトを購入いただいた投資家の方々も、共に変革を起こしてくださった存在です。今でこそ100億円を超える規模のSTも募集・販売できていますが、当初はSTの認知度が低く、販売も思うようには進みませんでした。しかし、何も実績がない中、リスクを取ってでも野村の挑戦の心意気にベットしてくださった方々がいる。だからこそ、私たちも新しいプロダクトを生み出し続けることができるのだと思います。

坂本
商品を販売するウェルス・マネジメント部門の担当者も同じです。国内初の新商品なので、当然売れるかどうかは誰にも分かりません。それでも「よし、やるぞ」と前向きに動いてくれた方が何人もいました。野村の「先取りの精神」は、全国の支店にも息づいていると感じます。
Story 5
ビジネスが成長するダイナミズムを味わう


山田
STを通じて、不動産投資がもっと身近になってほしいと願っています。例えば、旅行で訪れた街並に魅力を感じてスマホで検索してみたら、その街の不動産STが見つかる。そしてその場で投資ができる。そんな未来が来れば面白いし、様々な地域の活性化にもつながりますよね。

根本
課題としては、買ったものを投資家間でリアルタイムに売買できる市場の構築ですね。それが実現すればSTもさらに発展し、山田さんが描く未来も実現するはず。そこを目指して、今もプロジェクトを進めています。

坂本
私はこれから、グローバルでオープンなブロックチェーン・ネットワークと伝統的な金融の世界がますます融合していくと思っています。この融合が進む中で、金融資本市場の更なる活性化につながる新しいプロダクトやサービスを生み出していきたいです。野村の不動産STはその第一歩。これから第二千歩くらいまで進んでいきたいと思います。

山田
挑戦するリソースも企業風土もあるので、ぜひ実現させていきたいですね。野村にいて思うのは、大きなビジネスに携わる醍醐味がある一方で、たとえ小さくても、今の世の中にないビジネスを生み出し、それが成長していくダイナミズムを肌で感じ取ることができるということです。

坂本
同感です。金融や経済に大きなインパクトを与えるようなビジネスを、自分の手で生み出せる可能性がある場所ですね。

根本
ここまでいろんなことに挑戦できる会社は他にないのでは。おそらく、私が仕事人生を終える時は「野村にいてよかった」と感じるはず。野村にいれば、日本の経済に貢献できたと実感できるような社会人生活を送ることができると思います。
坂本
STの基盤技術となるブロックチェーンは、2008年頃に誕生した技術であり、この技術を用いたビットコインなどの暗号資産には、仲介業者を介さずに個人間でいつでも取引できるといった特徴があります。世界的にもブロックチェーンを活用したサービスやプロダクトの大きな成長が見込まれる中、株式や債券などの伝統的な金融商品を取り扱っている野村のビジネスにとってはリスクとなる恐れがありました。しかし、逆に野村がこのテクノロジーを利用すれば、新たな金融サービスやプロダクトをお客様に提供できるのではないか。その可能性を見出すべく、野村では、2015年頃から調査研究が始まりました。